検証:しばた台輪-煽っても壊れないのはなぜ?-<新潟日報(平成15年8月20日朝刊)掲載>

2003年08月20日お知らせ

例年、27日から29日にかけて諏訪神社とその周辺において「城下町新発田ふるさとまつり」が開催される。

町を挙げての盛大な祭礼となったのは、「新発田図志料」(小泉蒼軒編集)によれば6台の飾り人形屋台が、享保11(1726)年に出されて以来とあり、今から277年前のことになる。天皇即位記念の平成2年と即位10周年の折には、全国の祭りの中から新発田の台輪も選ばれ、皇居前で他の山車には無い「煽(あお)り」を6台で披露し、参加した多くの祭り関係者や観客を大変驚かせたと聞いている。

平成13年度から文化庁の「ふるさと文化再興事業」によって、277年間行われなかった台輪の各部材を記録する機会を得て以来、「なぜ、台輪はあんなに煽っても壊れないのだろうか」という多くの人の疑問に答えようと取り組みを始めた。

「下町台輪」の重量は、台輪本体1.585トン、人員0.975トン、総重量2.56トンもあり、かなり重い台輪が煽られている。

検証は 「部材記録」とビデオによる映像をもとに以下の解析を行なった。

柱は直径72ミリ の樫(かし)材で作られており、柱の先端部の最大移動変位は、煽り上げた時は後方に834ミリ、下げた時は前方に125ミリ揺れており、全体のゆれ幅は959ミリと確認された。柱材は許容応力度に対してほとんど余力は無いが、材料強度の限界までは47パーセントの安全率があることが確認された。

重要な検証対象は台輪を煽り下げ、前輪が路面に激突したときに「前輪に衝撃荷重がどれだけ掛かるか?」という問題であった。煽り上げた時の前輪の浮き上り高さは325ミリ、下げた時、前輪が受ける衝撃による荷重は、台輪に人が乗った総重量より重い2.7トンの荷重を受けることが明らかになった。

前輪の構造は外周部の櫛形(くしがた)7枚と、中心部の轂(こしき)を21本の輻(や)で繋(つな)ぎ構成されている。また、櫛形同士の内円側には7枚のちきりで補強され、輻を通すことで車輪全体を極めて堅牢(けんろう)な構造に作り上げている。轂は欅(けやき)材であるが、他はすべて樫材が使用されている。

前輪が受ける荷重に対して櫛形部分は十分な安全率を持ち、輻の部分も1.67倍の安全率があることが分かった。

前輪が受ける全荷重を支えるのが樫材で出来た直径89ミリの前輪 芯棒(しんぼう)である。芯棒の許容応力度に対する安全率は1.02倍と小さい。条件によっては折れる可能性があることも明らかになった。

市指定の有形民俗文化財「しばた台輪」は、木造の柔構造の仕口を作った匠(たくみ)の技と、車大工職人の秘伝の技術が合わさって作り上げられた結果が、「煽っても壊れない台輪」となった理由であろう。

全体として材料強度の安全率には幾らかの余裕があるが、近年、台輪を煽る回数が次第に増えてきている。運行条件も、以前の砂利道と現在のアスファルト道路では前輪が受ける衝撃荷重は、比較にならないほど大きい。市当局も、市民も全国で他に類の無い、煽る山車「しばた台輪」を市の大切な文化財として、保存に尽力していただくことをお願いしたい。